リボーンアートフェスティヴァル、吉増剛造さんの「詩人の家」を訪ねました+出演した「放送大学」特別講義、9月28日に二本がオンエアです


 刃を入れるべく 紅き林檎をぬぐひけり    (木下 夕爾)

 詩人の木下夕爾は俳句も作りました。句作では久保田万太郎の指導を受けたこともあるとか。なるほど、よくわかる気がします。さりげない人事面を素材とした抒情句ですから。さて九月も半ばをすぎて、林檎の季節になってきましたね。

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 8月3日に始まり、9月29日まで開催されていますリボーンアート・フェスティヴァル、牡鹿(おしか)半島や石巻市の市街地を舞台に多くのアーティストが参加した震災復興をテーマとするアートフェスですが、詩人の吉増剛造さんは、石巻の鮎川エリアに設けられた「詩人の家」に滞在して、ふた月の期間中に長篇詩を書き上げる、というプロジェクトを実践されています。

 ご覧いただいた画像、最初のは「詩人の家」から車で10分ほど、ちょうど目の前に金華山(きんかざん)の島の姿が迫る、ホテル・ニューさか井の206号室(吉増さんが泊まる部屋です)の窓のガラスに書かれた詩です。窓の向うには金華山、それでこの部屋を「roomキンカザン」と名付けて、アートフェスの鑑賞者に自由に見学してもらおうという狙い。次が、その「詩人の家」に座る吉増さん。元は地区の雑貨屋さんだった民家を改装したそうです。詳しくは追ってまた、ということで、東京からはるばる東北新幹線を使って仙台経由で石巻へ。JR渡波(わたのは)駅に降り立ちました。
鮎川地区は牡鹿半島でもかなり南のほうですから、簡単に行けません。駅前で、ホテル・ニューさか井の迎えの車を待ちます。

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 「リボーンアート・パスポート」、吉増さんが用意くださっていました。これで各エリアのスポットを巡って、そこでスタンプを押すのです。向かうは、Fの鮎川エリアです。渡波駅から車で一時間近く移動して、ホテル・ニューさか井に到着しました。

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 ホテルの目の前に金華山です。牡鹿半島の突端にある島ですが、ここに天平年代に創建されたのが、金華山黄金山(こがねやま)神社です。日本で最初に黄金がとれたのを祝して祀られたこの神社ですが、「三年続けてお詣りすれば、金(かね)に不自由はさせまい」というありがたいご利益があるそうですね。しかしこの金華山、あの東日本大震災を引き起こした大地震の震源地から、一番近い日本列島の場所というので有名でもあります。ホテルロビーには、大地震発生後しばらくして金華山に続く海が割れて海底が見えた際のスナップ写真が飾られています。

 さあ、吉増さんの「roomキンカザン」にお邪魔しましょう。長篇詩、「巨魚(isana)よ、巨魚(isana)」と題されて、僕らが訪ねた18日には完成していました。そのなかの言葉が、窓ガラスに書きつけられています。向うには金華山。うーん、Windows Poemとでも名付けましょうか。窓ガラスの言葉は時々書き換えられるそうです。「いさな」は古い日本語で鯨を表しました。ここ鮎川地区、実は捕鯨船の基地があって、先日には吉増さんも、捕獲された鯨の「解剖」を見学したそうです。

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 しかしこの「roomキンカザン」、しばし部屋に滞在するだけで、詩人吉増さんの気配をありありと体感できるわけですが、吉増さんは毎日、部屋を訪ねる見学者に対して「ようこそ!」という呼びかけから始まるメッセージを机に残します。これが滞在中にどんどん増えていきますが、これらはその一枚が一篇の詩ですね。

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 また現在読書中の本もズラリと並んでいます。そして驚いたのは、部屋のトイレです。トイレの便器にも、吉増さんの初期の名作「朝狂って」が貼り付けられていました。思わず笑ってしまいました(笑)。便器がアートになった、というのは、マルセル・デュシャンの例の「泉fountain」以来なのでは。

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 この日は、われわれのほかにも、「現代詩手帖」誌や「図書新聞」の元の編集長でフランス文学者の山本光久さんや、高知県美術館や岡山県立美術館の館長さんだった鍵岡正謹さんご夫妻もご一緒でしたので、ホテルでの夕食は賑やかでした。

 われわれ、というのは、講談社の編集者の山崎比呂志さんと僕ですが、今回の訪問、実は先年に作った吉増さんの『我が詩的自伝』の続編となる一冊を講談社の現代新書から出そうというので、吉増さんインタビューを続けてきたのです。その〆として、ここで書き下ろしの長篇詩のことに触れて、お話しをうかがうという目的があったのです。

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 吉増さん、ご自身で原稿を指しながら、その詩の生成の過程をお話しくださいましたが、今回は筆記する現場を小型のヴィデオカメラで撮影して、それを新しいgozoCine(ゴーゾーシネ)として発表されるとのこと。なんと、エクリチュール発生の現場が可視化される、というのですから、これも画期的です。今回のWindows Poemといい、このシネといい、吉増さんはつねにご自身をUP DATEし続けていますね。

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 翌19日、われわれのインタビューも終わって、今日この部屋に残す「ようこそ!」のご挨拶を書かれます。午後は「詩人の家」に出向かれるのです。佳いお天気、さあわれわれも他の展示などを見学して、「詩人の家」を訪問しなくては。スタッフのかたが車で案内くださいました。

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 ホテルから車でしばらく走ると、鮎川エリアのF8の作品スポットである、島袋(しまぶく)道浩さんの「白い道」です。現代美術家の島袋さんは、今回のこのエリアのキュレーションも担当されたとか。吉増さんに声をかけられたわけですね。さてご自身の作品、これがとても佳かった。金華山に向かって降りてゆく観光歩道を利用して、その細い道に白い小石を敷き詰めました。

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 木立の木漏れ日のなかを白い道は海岸線のほうへ下って行きます。向うには金華山の姿。鹿も住んでいるそうですが、姿はわからないなあ。ちょうど晩夏の太陽も降り注いで、紺碧の海が広がります。素晴らしい風景。行き着いたところには、バードコール?小さな器具を回すと、小鳥の声に似た音響が鳴り渡り、鳥を呼び寄せるのだとか。残念ながら呼んでも来ませんでしたが、なかなか秀逸なコンセプトです。被災地での小鳥との共生、ですね。

 さて、また車で移動して、プレハブの簡易施設で営業している食堂に連れていってもらいます。名物の海鮮丼、ちょうど獲れたばかりという鯨も賞味できました。そこから吉増さんのおられる「詩人の家」へ、です。

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 「家」ですから、ちゃんと郵便受けも用意されています。吉増さん自筆の住所表示です。「詩人の家」に行く前に、その裏にある青葉市子さんの展示を見てきましょう。

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 やはり鮎川地区ですから、鯨のテーマですね。付近の海岸にあったという鯨の骨なども展示されています。またアイスキャンデー、自由にどうぞ、はいいですね(笑)。実際皆さん、アイスキャンデーをなめながらの鑑賞です。

 もう一軒に回ります。こちらは、写真家の野口里佳さんの展示室。ムーヴィーとスティールの両方です。

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 野口さんの写真、おや、家の側壁にもありましたよ。これ、金華山で桜の満開の時期に、樹上で桜を食べるお猿さん。いいですね。

 さあ、「詩人の家」の吉増さんです。雑貨屋さんのご主人よろしく、訪ねて来るひとたちをお客さんのように、「いらっしゃい」と明るく迎えます。脇のスペースでは朗読や演奏会、上映会などのイベントも行われます。また夜には、「詩人の家」バーとなって、お酒も呑めるとか。
うん、「詩人の家」のコンセプト、大正解なのでは。またこの後ろには宿泊できる設備もあって、一泊すると翌朝は朝ごはんを吉増さんと一緒に食べるそうですね。facebookでは、その様子がずっとレポートされています。

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 「詩人の家」にも、吉増さんの蔵書やCDやヴィデオがたくさん持ち込まれています。

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 さあ、リボーンアート・パスポート、Fの鮎川エリアはスタンプがだいぶ溜まりました。

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 時間が許せば、もっと他のエリアも回りたいところですが、帰京予定の時刻です。路線バスで石巻まで出ましょう。「詩人の家」、少し高台になっているのですが、近くに江戸期?の碑が建ちます。この地点まで津波が襲った、という警告碑ですね。でも、2011年の折には、波はさらに高いところまで寄せたのだとか。海岸では護岸工事が行われていて、復興の道はまだ半ば、ですね。皆さん、フェスティヴァルの会期は9月29日まで、まだしばらくありますから、ぜひどうぞ。

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 ここで、「放送大学」特別講義のPRを。僕が出演します45分の特別講義、今月28日(土)にBS231チャンネルで二本がオンエアされます。一本目の「文人精神の系譜~与謝蕪村から吉増剛造まで」は、まさに吉増さんがメインゲスト、こちらは、16時30分から17時15分までです。 二本目の「風狂を生きる精神~一休、蕭白からアラーキーまで」、こちらは、21時から21時45分まで。写真家のアラーキーさんがおおいにノッてお話しくださいました。こちらに、他の特別講義と並んで、案内が出ています。

 https://bangumi.ouj.ac.jp/bslife/category04.php

 まだご覧いただけていないかた、どうぞじっくりと鑑賞ください。ふたつながら、異色の特別講義です。

林浩平 吉増さん宅にてロケ.JPG林浩平 エンドロール.JPG林浩平 「風狂」編集用VIDEO 2.JPG林浩平 アラーキーさんと 2018年11月 4.JPG

 お別れの引用句、吉増さんが出されています「詩人の家新聞」の第一号に載ったフレーズを引きましょう。「クジラと人」シリーズ?でしょうか。こんな一節です。

「巨魚(イサナ)よ巨魚(イサナ)、汝(ナ)、宇宙樹に登れ!」

                         (吉増 剛造)

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