国立新美のボルタンスキー展、見応えがあります+『荷風と玉の井』トークイベント、なかなかの盛況でした


 金魚大鱗(きんぎょ たいりん) 夕焼(ゆやけ)の空の如きあり   (松本 たかし)

 関東地方、やっと長い梅雨が明けました。この句、赤い金魚の大きな鱗を詠んだものですが、例えられた夕焼けの空、まさに梅雨明けの真夏の夕空、でしょうね。作者は、明治39年に宝生流の能役者の家に生まれたのですが、病身のために能楽の世界に生きることを諦め、やはり能楽に縁の深かった高浜虚子に俳句の手ほどきを受けたとか。しかし俳号にひらかなの「たかし」はないでしょう(笑)、いつも演歌歌手を連想します。

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 六本木の国立新美術館では現在、クリスチャン・ボルタンスキー(1944~)の「Lifetime」展を開催しています。同じ企画展はこの三月に大阪の国立国際美術館で鑑賞して、このブログでも簡単にレポートしましたが、東京に巡回したこの機会に、じっくりと鑑賞しましょう。

 今回の展示は撮影OKのスペースもかなりあるのですが、前半の展示は、展覧会図録を接写して紹介しましょう。

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 「出発」(DEPART)は2015年制作のLED電球を使った作品、次のは代表作のひとつでしょう、1987年制作の「保存室(プリーム祭)」です。
ユダヤ系フランス人であるボルタンスキーは、ナチスによるホロコーストの痕跡を主題とすることが多いのですが、「保存室」シリーズでは、(死者たちの)写真とランプ、それにビスケット缶が使われています。このブリキ缶は骨壺を暗示しているとか。確かに「喪」のテーマが明確に打ち出されています。

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「保存室」と同じような手法で制作された作品です。ボルタンスキーの展示空間の主調を構成していますね。

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 続いての3作、上のは「死んだスイス人の資料」(1990年)です。新聞の死亡告知欄から切り取ったスイス人の写真がビスケット缶の前面に貼られています。それから真ん中、左は「自画像」(2008年)、7歳から60歳までの自分のポートレートを使ったもので、右の作は、「最後の時」(2013年)、自分がこれまでに生きた全時間をこのカウンターに示しています。下のは「ヴェロニカ」(1996年)、キリストがゴルゴダの丘に向かう途上で十字架の重みに苦しんだ際に、聖ヴェロニカが彼の顔をぬぐった布という伝説に拠りました。半透明の布を透かして見える女性の姿が主題だそうです。

 さて次には、撮影自由の展示フロアに進みました。この東京での展示のみに作成された「幽霊の廊下」、面白いです。

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 その廊下を通り抜けると、向こうのフロアには「ぼた山」などの展示がありました。ここも実写です。

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 「ぼた山」(2015年)は、衣類と円錐形の構造物とランプで構成されています。そのうえの天井には、「スピリット」(2013年)、肖像がプリントされた布が垂れ下がり、電球で照らされています。ヴェールは空間内に漂っていて、さまよえる霊魂を呼び起こすものだそうです。フロアにはまた、板にコートをかけた物体が立っていますが、これが「発言する」(2005年)です。これらの人形は彼岸の番人だそうで、色んな国の言葉で、我々がどのようにあの世に行くのかを語っています。

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 例の「アニミタス」シリーズ、ここには「アニミタス(白)」(2017年)が展示されています。細長い棒に取り付けられた数百の風鈴を使って、ボルタンスキーが生れた日の夜の星座を再現したそうですが、これが設置されたのは、カナダ北部の雪原とのこと。強い風に風鈴が鳴ります。ここでも天井には「スピリット」です。

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 そしてこれが今回のメインの展示作でしょう、「ミステリオス」(2017年)、三面のスクリーンを用いたヴィデオプロジェクションです。南米のパタゴニアで撮影されたもので、ラッパ状のオブジェを使ってクジラとコミュニケーションをとろうとしたものとか。響いている音は、クジラの声なのでしょう。左の画面には、クジラの白骨が横たわります。前のスツールに座って、しばし瞑想したいくらいでしたね。

 出口付近には、「黒いモニュメント、来世」(2018年)、本展のために制作されたものだそうです。ビルのようでも、墓地のようでもあります。

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 さて先日のこのブログ記事でお知らせをして、25日(木)に行われました、紀伊國屋書店でのトークイベント、『荷風と玉の井・「ぬけられます」の修辞学』の著者の嶋田直哉さんと僕とのトークでしたが、荷風の名作『濹東綺譚』の世界をめぐって話は弾みました。会場フロアには、谷崎潤一郎の専門家、というよりも第一人者です、早稲田の名誉教授の千葉俊二さんもお越しくださり恐縮しました。また大学の教え子や近代文学大好きという元教え子らも来てくれて、ありがたいことでした。こういう集まりもなかなかよいものですね。

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 お別れの引用句、ボルタンスキー展の図録に収められた、詩人(作家)の関口涼子さんのテクストから引きましょう。関口さんはずっとパリに在住で彼の地で活躍していますが、ボルタンスキーとは何度かのコラボを行なっています。2017年の庭園美術館の個展でも、朗読される音声のテクストを提供していました。図録のテクスト、ボルタンスキーの世界の象徴とも言える「亡霊」をめぐっての88個の「質問」という形式をとっていますね。

「19.「亡霊」を三つの単語で定義するとしたら?

 43.亡霊はものを食べるのでしょうか?

 57.亡霊がいなくてさみしいことがありますか?」

        (関口 涼子 「亡霊(的な)88の質問」)

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この記事へのコメント

戸塚
2019年07月31日 15:51
林先生、こんにちは。
テキスト分析論の授業を取らせていただいていた戸塚です。ご連絡したいことがありコメントさせていただきました。
ミニヨン
2019年08月02日 09:44
戸塚さんへ。何かレポートのことで問題があれば、教務課に至急連絡しなさい。このコメント欄は場違いだよ。