和歌山市の加太と堺市を歴史散歩。堺市では短歌結社「未来」の大会へ。


 瑠璃沼に 滝落ちきたり 瑠璃となる      (水原 秋櫻子)

 この「折々の句」コーナーにこれまで秋櫻子の句を引いたことはなかったと思います。が、佳い句をたくさん残していますね。客観写生、対象の色彩は明るく輪郭は鮮明、滝の涼気がよく伝わります。虚子の世界をうんとモダンにしたものでしょう。

 先日は郷里の紀州和歌山への帰省期間でした。一日、久しぶりに加太の町を訪ねます。中学時代は、南海加太線を使って東松江駅から和歌山市駅までを通学したのですが、馴染んだ郊外電車、乗ろうとすると、どうも様子が違います。おや南海電鉄、この路線に加太さかな電車と愛称を与えて、オシャレなデザインで統一、加太を観光地にしようというネライですね。

乗りこんだ電車、全体が赤で統一されて、鯛をシンボルにしたキャラクターが車体に描かれてます。ドアのところに「めでたいでんしゃ medetai train」。シートに腰かけて驚きました。吊革のところが魚のかたちになっていて、車内をお魚が泳いでいるという趣向です。加太は鯛の一本釣で知られているので、シンボルキャラになったのでしょう。これは、今年のお正月にここでレポートした、あのタマ電車のユニークな車体デザインからヒントを得たのかも、です。赤と青、ふたつの車両があるそうです。

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 終点の加太駅で降りて、町に出ます。加太は、和歌山市と大阪の泉南との接点、南海道の本州最西端の集落で、古代より水陸交通の要衝として重んじられたそうです。中世には摂関家の荘園でもありました。古い街並も残っています。旧警察署庁舎、木造二階建ての洋館や、小さな運河に面して建った古い倉庫もありました。

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 町のなかにはお寺や神社もかなりあるのですが、由緒のあるのはここ、加太春日神社です。『紀伊続風土記』によれば、神武天皇の東征の際に、神鏡と矛を託された神様が加太浦に流れ着き、このお宮を創建したとされます。本殿は慶長年間に建てられたそうで、檜皮葺の国の重文です。当日はあいにくの小雨でした。

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 葛城山で修行した役小角(えんのおづの)は、このあたりにも足跡を残します。役小角、別名は役行者(えんのぎょうじゃ)でしたから、小高くなった丘のうえに行者堂がありました。滑りやすい坂道をえっちらおっちら登って、なんてことのないお堂の前で記念ショット。加太の港の向こうには友ヶ島が見えていますね。その向こうは淡路島の島影です。

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 加太訪問の主なお目当ては、3月3日の雛流しの神事で知られるここ淡島神社でした。神功皇后との所縁で創建されたところからでしょう、女性の守り神で縁結びや夫婦和合にご利益があると言われます。なんといっても有名なのは、境内に奉納されたおびただしい数の色んな種類の人形です。ご覧ください。ちょっと怖いくらい、ですね。

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 淡島神社の入口には土産物屋兼食堂があります。この日のお昼ご飯はここで、サザエの壺焼きとビール、そしてシラス丼でした。

 翌朝は、堺市に向かいます。この日の午後からは、南海電鉄の堺駅に隣接したホテル・アゴーラリージェンシーで、短歌結社「未来」の大会が開かれるのです。歌人の江田浩司さんからその情報をうかがっていたので、ちょうど和歌山市に滞在中ですから、「じゃあ僕もいいですか」と知友の皆さんに久闊を叙すべく参加しました。(ただ、代表の岡井隆さんはご高齢による体調のことから遠路の移動は難しいよし、さらには東京在住の同人諸氏の出席が少ないようだったのはちと寂しいですね。それでも150名ほどの賑やかな集まりでした。)

 堺市、しばしば通るのですが、市内は通過するばかり、せっかくの機会です、ここは市内観光へと繰り出します。南海特急サザンを堺駅で普通に乗り継いで次の七道駅まで。改札を出ると、落ち着いた街並みです。またここは随所に史跡や観光スポットの案内板が出ていて、ずいぶん助かります。まずは鉄砲鍛冶屋敷まで。ここは以前にテレビで紹介されてました。井上家、内部は非公開ですが、年季の入った家屋です。屋根瓦がずり落ちそう。なんでも明暦期には年間4000挺もの銃が製造されたとか。

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 さらに数百メートルほど南に下ると、鉄砲鍛冶だった榎並屋(えなみや)勘左衛門・芝辻(しばつじ)理右衛門屋敷跡の碑があります。そもそも芝辻家の初代の清右衛門(せいえもん)が鉄砲受容史の重要人物、紀州の根来に伝わった種子島の火縄銃をこの清右衛門が学び、堺での生産の基礎を作ったそうです。碑の隣には、堺出身の歌人の與謝野晶子の歌碑もありました。

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 そこからさらに南に進むと幅の広い道路に出ます。和歌山方面に続くので「紀州街道」と呼ばれます。車道が二車線に歩道まで二車線!?あるくらいの広さ、真ん中をチンチン電車が走りますが、これが阪堺(はんかい)電気軌道阪堺線です。この道路幅の広さ、てっきり空襲で焼かれた跡の区画整理?のせいで、と思ったくらいですが、そうじゃなく江戸時代から続くよし。堺も空襲被害はあったのですが、このあたりは大丈夫だったそうです、そうでないと江戸時代の屋敷は残りません。道を少し脇に折れると、江戸時代前期の町屋として残る「山口家住宅」、堺市立町屋歴史館です。

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 元禄2年(1689年)作成の「堺大絵図」には、ここは旧屋号である越前屋久右衛門邸となっています。山口家は大きな庄屋だったそうですが、どんな商売で財を成したかは不明、とのこと。江戸時代には「堺の建て倒れ」(「大阪の食い倒れ」に対してでしょう)という言葉があったといいますから、堺衆は住宅に巨額を投じたようです。

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 幅の広い紀州街道、「大道筋(だいどうすじ)」と呼ばれるそうですが、そこに面して堺伝統産業会館があります。堺では天正年間にタバコの葉を刻むタバコ包丁が造られだし、そこに鉄砲鍛冶の技術も加わって、堺刃物の生産が始まります。この産業会館、出刃包丁以下、色んな種類の包丁がズラリと展示されていますね。しかし堺の観光土産として目下売り出し中なのは、前方後円墳の形を模した古墳饅頭?でしょう。あの仁徳天皇陵などの周辺の古墳群が世界遺産に認定されたばかりですから、当然か。ただ古墳饅頭、味のほうはどうなのでしょう(笑)。

 大道筋をさらに下ると、ありました、與謝野晶子生家跡の碑と歌碑が。晶子はこの大道筋に面した老舗和菓子屋の駿河屋に、明治11年の12月7日(おや、瀧口修造と同じだ!)に三女として生まれています。晶子の生い立ちや業績は、この近くの「さかい利晶の杜」という文化施設の晶子記念館で詳しく紹介されています。しかし、「利晶の杜」とは、堺出身のビッグネーム、千利休と與謝野晶子をくっつけたネーミング、まあ堺衆の合理主義?でしょうか(笑)。

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 午後1時から、短歌結社「未来」の堺大会が始まりました。クーラーのよく効いた大広間で、第一部は、結社メンバーのベテラン歌人の大島史洋さんによる短歌名作鑑賞。佐藤佐太郎、宮柊二、近藤芳美の代表作の丁寧な解読でした。第二部、これが面白かった、ジャズピアニストの山下洋輔さんが結社メンバーの笹公人さんのインタビューを受けるかたちで「ハナモゲラの逆襲」と題されたトークです。ハナモゲラ語というのは、山下氏周辺のジャズミュージシャンたちが開発?したインチキ外国語などの言葉遊びですが、なんといってもお笑いのタモリがヒット?させましたね。山下さん、福岡公演の際にタモリと出会った折の話など面白く話してくれました。確かにタモリは本名は森田一義、モリタをタモリとひっくり返した命名、これなどまさにジャズ屋のセンスです。トークではおおいに笑いましたが、その後の山下さんのピアノソロ演奏、これはたいしたものでした。ロック人間である当方、これまで山下洋輔の演奏をちゃんと聴いたことがなかったのですが、この技量はなるほどワールドクラス、歌人の皆さんも拍手喝さいでした。

 第三部はシンポジウム「與謝野晶子とわたし」、参加者は結社メンバーの中川佐和子さん、道浦母都子さんに池田はるみさんにゲスト歌人の林和清さん、司会は佐伯裕子さんで、「晶子から何をうけついだか」をテーマに丁々発止、なかなか盛り上がりました。そのまま懇親会にも出席して、加藤治郎さんや江田浩司さん、松山在住の渡部光一郎さん、遅れて顔を出した黒瀨珂瀾さんたちと楽しく呑んでいました。会場のスナップをどうぞ。山下さんのはネットから拾いました。

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 お別れの引用句は、晶子の生誕の地に建つ歌碑の作としましょう。

「海こひし 潮の遠鳴りかぞへつつ 少女となりし父母の家」

               (與謝野 晶子)

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